医療法人社団 弘人会中田病院

tel

〒347-0065 埼玉県加須市元町6番8号

Column症状別コラム

軟骨は本当にすり減るのか?

2024/11/26 14:21

軟骨は本当にすり減るのか?

変形性関節症は加齢とともに関節内の組織が変性し、痛みや可動域制限などの症状を主とする整形外科疾患です。膝関節や股関節の変形性関節症が有名で、症状に悩まされている方も多くいらっしゃいますが、肩や肘などでも変形性関節症は存在します。変形性関節症は明らかな原因が不明な「一次性関節症」と、原因が特定できる「ニ次性関節症」の二つに大別されます。一般的には軟骨がすり減ることによって痛みが生じたり、変形が進行すると言われていますが、人間の関節軟骨は現代科学でも何とか再現できるレベルでとても滑らかな作りになっており、日常生活程度の負担(メカニカルストレス)で簡単にすり減る・摩耗するということはありません。また変形性関節症では痛みが主症状として挙げられますが、関節軟骨は痛みのセンサーがないので、軟骨が破壊されても痛みを感じることはありません。

ではなぜ、軟骨が破壊されるのか・痛みを感じるのでしょうか?

こちらでは関節のメカニズムに則ってお話ししたいと思います。

1.本当に関節軟骨はすり減るのか?

結論からいうと変形性関節症において「軟骨がすり減る」という表現は必ずしも正確ではなく、実際には「破壊」や「変性(変質)」が主要な要因と考えられています。

 

一般の方々にわかりやすく説明するためにすり減るという表現を使用しますが、前述した通り関節軟骨は日常的な負担で擦れることによって、すり減るということはありません。

滑りやすさを示す「摩擦係数」といわれるものがありますが、関節軟骨は摩擦係数が「0.002〜0.02」と「0」に近い数字を示します。

つまりちょっと擦れたりするだけでは、すり減る可能性は低いといえます。

 

では、なぜ関節軟骨が徐々に無くなってしまうのでしょうか?

 

別のコラムにもありますが、O脚(内反変形)やX脚(外反変形)などにより、関節内の圧が一部分に集中したり、瞬間的に負担が加わったりすることが関係するといわれています。

変形性関節症では、関節軟骨が徐々に減少していきますが、これは単純な摩耗ではなく、軟骨の組織が構造的に破壊されるプロセスが含まれます。軟骨は本来、コラーゲンやプロテオグリカンといった成分からできており、滑らかで弾力性のある特性を持っています。しかし、進行するにつれ、以下のような要因により軟骨が変質していきます。
 

1-1.炎症によるダメージ

関節内の滑液中で炎症が生じると、関節を保護するはずの滑液の成分が変化し、軟骨を攻撃する酵素(プロテアーゼやマトリックスメタロプロテアーゼなど)が活性化します。これらの酵素が軟骨を分解し、軟骨の破壊が進む原因となります。
 

1-2.細胞の変性

軟骨は、軟骨細胞がコラーゲンやプロテオグリカンなどの成分を産生して維持されていますが、関節症の進行に伴い軟骨細胞の働きが低下し、軟骨組織が修復されなくなります。その結果、軟骨の変質が進みます。
 

1-3.軟骨の劣化と破壊の連鎖反応

軟骨が一部でも破壊されると、関節にかかる負荷が増し、破壊がさらに加速する「悪循環」に陥ります。この過程が繰り返されることで、関節軟骨は徐々に崩壊していき、最終的には骨と骨が直接接触する状態に至ることもあります。

以上を簡単にまとめると

変形性関節症において軟骨が破壊されるメカニズムは、単純な「摩耗」ではなく、炎症や酵素による分解、軟骨細胞の機能低下といった複合的な要因によって引き起こされるものです。そのため、「すり減る」よりも「破壊」や「変性」といった表現がより正確であり、これが関節の痛みや変形の原因となると考えられています。

 

2.なぜ痛みを感じるのか?

 

生物は「受容器」といわれる感覚のセンサーに刺激が及ぶことによって触られている・温かい・震えている・痛いの感覚を感知することができます。痛みは「侵害受容器」といわれるセンサーが反応することにより感知することができます。受容器で感知することによって感知された情報は神経を伝って脳に伝達され、「痛い」と感じることができるのです。この侵害受容器は全身どこにでもあるわけではなく、歯の表面や爪などには存在しません。

つまり受容器がない部分に損傷が及んでも人間は感知することができずに気づかない可能性があるということです。
 

関節に話を戻しますが、すり減るといわれる関節軟骨には痛みのセンサーがありません。

またその下の骨(軟骨下骨)にもセンサーはありません。

つまり、軟骨が損傷しても人間は感知することができないのです。

では、なぜ軟骨がすり減ることによって痛みを感じるのでしょうか?

 

実際、軟骨自体には痛みを感じる受容器(痛覚受容体)がありません。それにもかかわらず、変形性関節症では痛みが発生します。これは、軟骨が損傷や破壊を受けた結果、軟骨以外の周囲組織に影響が及び、これらが痛みを感じるためです。

変形性関節症で感じる痛みの原因は、以下のように軟骨以外の組織が関係しています。
 

2-1.滑膜の炎症

軟骨が破壊されると、関節の滑膜(かつまく)と呼ばれる組織が炎症を起こしやすくなります。滑膜には痛みを感じる受容器が豊富にあり、炎症によって放出される化学物質(サイトカインやプロスタグランジンなど)が痛みの原因になります。
 

2-2.骨の露出と変形

軟骨が消失すると、関節の骨同士が直接こすれ合うようになり、骨が傷ついたり変形したりします。この「骨硬化」や「骨棘(こつきょく)」といわれる新たな骨の出っ張りを形成します。骨棘の形成が進むと、新たな血管や神経が作られ本来痛みを感じない部分にも痛みを感じるような仕組みを作り出してしまいます。また、骨にも部分的に痛覚があるため、直接的な痛みを引き起こします。

2-3.関節周囲の靭帯や腱へのストレス

関節が変形すると、安定性を保つために関節周囲の靭帯や腱に余分な負担がかかります。これによって、これらの組織にも炎症や痛みが発生します。
 

2-4.筋肉へのストレス

関節の変形が進行すると徐々に可動域の制限が発生します。筋肉にも使いやすい長さや張りが存在し、可動域制限によって過度な負担や本来働かなくても良い位置で使い続けることによって筋肉そのものや筋肉の付着部に負担がかかります。これにより筋肉由来の痛み付着部の伸張ストレスによる痛みなどが発生する可能性があります。
 

2-5.関節内圧の上昇

関節内の滑液が過剰に分泌されると、関節内の圧力が高まり、関節包(かんせつほう)の血管や神経に圧迫が生じて痛みを感じることがあります。

軟骨そのものに痛覚受容器はないため、変形性関節症の痛みは軟骨の破壊がもたらす周囲組織の炎症や圧迫が主な原因です。このため、治療では単に軟骨保護だけでなく、周囲の炎症を抑えたり、痛みの原因となる変形や圧迫を軽減することが目標となります。

 

3.まとめ

今回はなぜ変形性関節症が痛いのか・軟骨は本当にすり減ってしまうのかということに関して解説させていただきました。関節軟骨は一度破壊されてしまうと再生することはありません。関節内の軟骨量を減らさないことが重要ですが、前述した通り軟骨は痛みを感じることがない組織なので症状の初期には痛みとして気づくことができない可能性が高いです。しかし炎症や正座など最終可動域まで動かすと違和感や痛みを感じるなど、異変は何かしら出る可能性はあります。別のコラムにも各関節における変形性関節症の症状や治療方法をご紹介していますので、何か思い当たることがありましたら、ぜひご一読ください。何事にも早期発見が大切です。気になることがございましたら一度整形外科をご受診ください。