人工膝関節置換術のリハビリについて当院の理学療法士が解説!
監修:中田病院リハビリテーション部 理学療法士 人工関節班 吉岡・遠藤
今回は、人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty 以下TKA)後のリハビリについて、当院理学療法士(以下PT)が入院前のリハビリから退院後のリハビリについて解説します。
「歩いたり階段を上ったり下りたりすると膝が痛い」
「膝が痛くて好きなことができなくなってきた」
「膝の痛みによって日常生活に影響が出てきた」
この記事を読んでいる方は、膝の痛みを抱えている方や主治医から手術の話をされた方、手術を控えている方ではないでしょうか?
膝の痛みに悩まされている方は、「変形性膝関節症」という診断名を一度は耳にしたことがあるかもしれません。その膝の痛みによって、日常生活やお仕事、趣味や好きなことができなくなったり諦めたりする方は少なくないと思います。
入院前の患者様とお話しする中で、TKAに対するイメージは「怖い」、「痛い」、「歩けなくなったらどうしよう」という心配する方が多いです。
そこで今回は、入院前から退院後までのリハビリの流れと実際の患者さんからよくある質問をQ&Aで解説します。
この記事を通して、手術を検討している皆さんの不安を少しでも和らげ、手術を前向きに考えるお手伝いができれば幸いです。
この記事でわかることは、以下の通りです。
- 人工膝関節とは?
- リハビリについて
- よくある質問Q&A
目次
人工膝関節置換術とは?
変形性膝関節症や関節リウマチによる関節の変形によって、痛みや動きにくさなどで日常生活に影響が出てしまった場合に選択される手術方法です。
TKAは、変形した太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)の関節面を人工の関節に変える手術です。
当院のTKA治療成績はこちら
変形の程度によっては、人工膝関節単顆置換術(Unicompartmental Knee Arthroplasty 以下UKA)という手術方法があります。TKAは大腿骨と脛骨の関節面を全部人工関節に取り替えてしまうのに対し、UKAは大腿骨と脛骨のそれぞれ片側だけ(内側がほとんど)を交換する方法です。
手術のタイミングについては、主治医とよく話し合って検討することをオススメします。
(合わせて読みたい!:変形性膝関節症と治療方法)
なぜリハビリが必要なのか?
人工関節だけではありませんが、手術後のリハビリはとても重要です!
その理由は、以下の通りです。
- 手術した膝が硬くならないようにするため
- 正しい筋肉の使い方や運動方法を練習するため
- 手術だけでは歩き方は良くならないから
- 自分でケアができるようにするため
これだけではありませんが、手術をする前より悪い状態にならないようにリハビリを行う必要があります。
特に、「手術だけでは歩き方は良くならないから」という理由はかなり重要だと考えます。
よく聞かれる声に、
「手術をしたのに歩いた時の痛みが取れない」
「手術をしたら痛みがなく歩けるようになると思っていた」
といったものがあります。
つまり、人工関節を入れて関節がよくなっても、体や筋肉の使い方、体重のかけ方が手術をする前と変わらなければ、また痛みが出てしまう恐れがあるということなのです。
人工関節の手術の目的は、変形した関節を人工関節に置き換えて、骨が原因の痛みを取り除くことです。しかし、リハビリでは、関節だけでなく筋肉や軟部組織(脂肪組織など)に負担がかからないようにすることが求められます。
痛みの少ない日常生活や趣味活動、仕事復帰ができるようになるためには、正しい関節の動かし方や筋肉の使い方、体重のかけ方を練習し、体全体のバランスを整えることが重要です。
当院のリハビリについて
当院のリハビリテーションは、主に以下の3段階で構成されています。
- 入院前のリハビリ
- 入院中のリハビリ
- 退院後のリハビリ
入院前のリハビリ
入院前のリハビリは、手術に向けての準備と術後を見据えた訓練を行います。主治医の処方があれば、外来リハビリを開始します。
主な内容は、以下の通りです。
- 関節可動域練習(膝の曲げ伸ばし)
- 筋力強化(膝だけでなくお尻周りや体幹、ふくらはぎなど)
- 体重のかけ方や歩き方の修正
- 自主練習の指導と確認
膝の曲げ伸ばし
筋肉や膝回りの軟部組織に硬さがあり動きにくくなってしまったことが原因で、痛みに繋がることがあります。リハビリでは、少しずつ動かしながら硬さや動きにくさを取り除き、膝の曲げ伸ばしの練習を行なっていきます。
術前の膝の可動域は術後の可動域に影響を与える1)との報告もあります。また、術前の可動域が良いものは術後も良好であり、反対に術前ROMの悪いものは術後のROMも不良であった2)との報告もあります。 (ROM:関節可動域)
当院TKA後の目標とする角度は、曲げる角度(以下屈曲)は120°、伸ばす角度(以下伸展)は0°を目標にリハビリを進めています。この角度は、日常生活を支障なく遂行するための角度3)と言われています。(あくまで目標なので、必ずというものではありません。個人差があります。)
このことから、術後の経過をよくするためには術前から膝の可動域は可能な限り確保する必要があると言えます。
人工膝関節置換術を成功させるために!術前の筋力強化が重要な理由
手術前のリハビリにおいて、関節可動域の改善と並んで重要なのが筋力強化です。術前から適切な筋力トレーニングを行うことで、手術後の回復をより早く、より確実なものにすることができます。
「手術を受ける前に、なぜ筋力強化が必要なの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。その理由を詳しくご説明します。
大腿四頭筋の活性化が重要!
大腿四頭筋は、太ももの前面にある大きな筋肉で、膝を伸ばすときに使われます。
術前に大腿四頭筋(太ももの前面の筋肉)の機能が低下している患者さんは、手術後の中長期的な筋力回復が遅れる傾向があります4)。
体幹が安定すると、全身の動きがスムーズに!
術前の体幹(お腹や背中の筋肉)機能が良いほど、術後の身体機能にプラスの影響を及ぼすことがわかっています。
膝だけでなく、周りの関節にも注目!
術前の股関節や足関節の機能(柔軟性や筋力)が術後の膝関節の回復に影響を与えることが示唆されています6)。このことから、膝だけでなく周りの関節のリハビリも重要になってきます。
自主トレーニングの重要性
外来でのリハビリに加えて、自宅での自主トレーニングも非常に重要です。医師やPTから指示された運動を毎日継続的に行うことで、より効果的に筋力を向上させることができます。
体重のかけ方や歩き方の修正
先ほど、手術をしても体の使い方は変わらないとお話ししました。
何年もかばってきた歩き方を、数ヶ月で修正するのはかなり大変です。なので、少しでも早く、手術をする前から正しい体の使い方や体重のかけ方の練習をしておく必要があります。
手術をした後も、基本的には大きな違いはありません。
自主練習の指導と確認
ご自宅でもリハビリができるように、自主練習の指導と確認も行います。
入院中も大切ですが、特に外来のリハビリ(入院前だけでなく退院後も)では大切になってきます。外来リハビリは、毎日行うわけではなくご自宅で過ごす時間の方が長いため、ご自身で自己管理できるようになる必要があります。
入院後のリハビリ
ここからは、入院後のリハビリについて解説していきます。
手術前日から退院までの流れをまとめてみました。
入院〜術前
手術する前日の午後に入院し、看護師から入院時の説明があります。
その後、リハビリスタッフによる関節の曲げ伸ばしの角度や筋力、歩く速さなどの検査、術後の説明を行います。
術後
手術当日のリハビリはなく、翌日の午前中からリハビリが始まります。
最初の目標は、
「ベッドから起きる・車椅子に乗る・トイレに行く・少し歩く」
というところから始まります。
歩く練習は、平行棒から始まり歩行器や杖、独歩(何も持たず)というように徐々にレベルアップしていきます。
平行棒
歩行器
T字杖
痛みの様子を確認しながら関節の曲げ伸ばしや少しずつ筋肉を使う運動も行い、術後1週間までに歩行器(状態に応じて杖など)自立を目指してリハビリを進めていきます。
リハビリの頻度は、基本的には午前午後1回ずつ行います。多い時には、午前午後2回行う時もあります。
当院は、PTによるリハビリだけでなくトレーニングセンター(以下トレセン)というものを設けています。
トレセンとは、状態が落ち着き、自由に病棟内を移動できるようになった方を対象とした自主練習を行うための場所です。自主練習の内容は、担当PTから提示されます。
自宅での生活を想定して、階段の練習や畳からの立ち座り、浴槽の出入りなどの練習も行っていきます。
退院後(外来)のリハビリ
晴れて退院となった後は、外来リハビリが始まります。
外来のリハビリの内容は、基本的には入院中と大きく変わりはありません。
実際にご自宅で生活して大変だったこと、仕事や趣味活動の復帰に向けたリハビリや復帰してみてどうだっかなどの確認を行います。
入院中のリハビリとの大きな違いは
入院中よりもリハビリの回数が少なくなる
ことです。
なので、外来リハビリでは自主練習が非常に重要です!!
外来リハビリでは、関節を動かす練習や筋力強化、体重をかける練習だけでなく、ご自身で身体のケアができるようになることを目標としています。
外来リハビリでは、初回と最終でお膝の状態を日本整形外科学会膝疾患治療成績判定基準(以下JOAスコア)という評価を用いて点数をつけて経過を追っていきます。
当院の強みは、入院前の外来リハビリから退院後の外来リハビリまで一貫したフォローが可能です。手術に向けて少しでも良い状態になるように準備していただき、日常生活での不安も解決できるように一緒にリハビリを進めていきます。
よくある質問 Q&A
入院日数は?
当院の平均日数は38日です。(2024年2月時点) 状態に応じて、入院日数は前後します。
お風呂はいつから?
当院では、シャワー浴は術後4日から開始、浴槽への入浴は感染予防のため1ヶ月禁止となります。
どれくらいで歩ける?
各種歩行練習の開始日と自立した歩行の獲得日数は以下の通りです。
平均日数(術後) | ||
開始日 | 自立日 | |
歩行器 | 2日 | 6日 |
杖 | 10日 | 10日 |
独歩 | 12日 | 22日 |
術後の歩行形態は、術前・術後の状態によるため必ずというものではありません。
やってはいけないことは?
術後やってはいけないことは、以下の通りです。
- 膝に対して強い衝撃がかかること(転ぶ、膝立ちなど)
- 正座
転んでしまうことは、人工関節だけでなくその周りや股関節の付け根、肩関節や手関節などの骨折にも繋がる恐れがあります。
正座については、人工関節の構造上大きな負担がかかるためできない動作としています。
抜糸はいつ?
現在は、溶ける糸を使用しており昔のような抜糸はしていません。術後2週間で、ガーゼの交換や術創部のチェックを行います。
自転車や自動車の運転はできるの?
自動車の運転は可能です。ですが、ブランクがあるため車通りが少ない場所や敷地内から慣らしていくことをオススメします。
自転車の運転も可能です。実際の自転車を使用した練習も行なっています。
仕事復帰はいつから?
仕事復帰は主治医と要相談となります。
できるスポーツとできないスポーツは?
推奨されるスポーツとそうではないスポーツは以下の通りです。
推奨されるスポーツ
- ボウリング
- ゴルフ
- 社交ダンス
- 水泳ウォーキング
経験者のみ許可されるスポーツ
- サイクリング
- ボート
- アイススケート
推奨できないスポーツ
- サッカー
- 野球
- テニス
- バレーボール
- バスケットボール
- ジョギング
年齢や症状によって個人差があります。スポーツ復帰に関しては、主治医にご相談ください。
外来リハビリはどれくらい通う?
当院外来リハビリの平均通院日数は、令和5年度の時点で87日となっております。
状態に応じてこの日数は前後します。
また、リハビリは永久にできるわけではなく期限が決められております。人工関節の場合は、股関節や膝関節関係なく手術をした日から150日と決められております。外来リハビリでは、期限内で終了できるように自主練習も頑張っていただき、ご自身でケアができるようになることを目標としています。
リハビリ終了のタイミングは、主治医や担当スタッフとご相談ください。
術後の整体、電気治療は?
主治医と要相談となります。
人工関節の寿命はどれくらい?
約15~20年と言われています。人工関節をかけないためにも、リハビリが重要になってきます。
空港の金属探知機は大丈夫?
人工関節は金属で作られていますので、空港などの金属探知機に反応することがあります。証明書等を発行いたしますので、旅行に行く際には主治医にご相談ください。
まとめ
TKAを選択することは、とても勇気を必要とする選択だと思います。「手術は怖い」「リハビリは辛そう」そんな不安は、誰にでもあります。ですが、主治医や看護師、リハビリなどのチームが全力でサポートします!
膝の痛みでお困りの方は、まずはお近くの整形外科の受診することをオススメします。
参考・引用文献
1)Shi MG, Lu HS, Guan ZP: Influence of preoperative range of motion on the early clinical outcome of total knee arthroplasty. Zhonghua Wai Ke Za Zhi, 2006, 44: 1101-1105.
2)宮津 誠、徳広 聡、船越 洋・他:人工関節置換術後 の機種別臨床成績と膝可動域.臨床整形外科,1994,29: 235-240.
3)齋藤 宏、長崎 浩、中村隆一(編):臨床運動学,医歯薬 出版,東京,2002,pp85-87.
4)古本 太希、片山 綾音、川村 由佳 他:人工膝関節全置換術後6ヵ月の筋力低下例を予測する術前因子の検討 理学療法科学 35(5):629–633,2020
5)大和田 和也、金子 悟、茂木 成介・他両側 TKA 患者における術後膝関節機能に与える術前因子の検討 第49回日本理学療法学術大会