脊椎圧迫骨折とは?
脊椎圧迫骨折は高齢者にたびたび見られる骨折です。
身近なところでも耳にしたことがあるのではないでしょうか。
脊椎圧迫骨折は、痛みによって動けなくなり寝たきりになってしまう原因にもなりうる骨折です。
今回は脊椎圧迫骨折について解説していきます。
脊椎圧迫骨折とは
椎体が圧迫されて押しつぶされるように骨折・変形してしまったことを“脊椎圧迫骨折”といいます。
脊椎圧迫骨折は、骨折による急性腰痛、姿勢が変わることによって生じる慢性腰痛、神経障害による筋力低下などの可能性があり、日常生活に影響を及ぼすことがあります。
特に、高齢で骨粗しょう症(内部リンク:詳細はこちら)となっている方は、くしゃみや重いものを持った時など、特別な原因が無く軽い力で骨折が起きやすいため、“いつのまにか骨折”と呼ばれることもあります。
原因
脊椎圧迫骨折は、おおまかに以下のように分類されます。
・外傷性骨折:転落やスポーツ外傷、交通事故など強い力が加わった場合に起こる
・病的骨折:骨粗しょう症や骨腫瘍などによって、骨の強度が低下している時にわずかな力で起こる
特に、転倒による骨折が疑われる場合は、転倒の原因を考えることも大切です。
病的骨折が疑われる場合は、骨密度や内科的な疾患の有無など、他にリスクとなりうる因子が無いか注意して検査を行います。
高齢になるほど発症しやすい
脊椎圧迫骨折の発症率は、年代が高くなるにつれて高くなっており、骨粗しょう症などの骨の強度が影響すると考えられます。
【圧迫骨折の有病率と年齢の関係】
木村鷹介:脊椎圧迫骨折の疾患概要と疫学,理学療法ジャーナル2022 No.12,医学書院:p1394-1402より引用
研究によると、骨密度が正常な椎体は約600㎏の圧力に耐えられたが、骨粗しょう症者の椎体は約200㎏の圧力にしか耐えられなかったと報告されています。
尻もちをついた場合には体重の6.5~9倍の圧力が椎体にかかるとされており、体重が50㎏の場合では、325~450㎏の圧力がかかる為、骨粗しょう症のある方では折れやすくなります。
発症しやすい部位
発症しやすい部位は、胸腰椎移行部とよばれる、第11胸腰~第2腰椎です。
脊椎圧迫骨折は女性に多く、
50~69歳で20%
70歳代で25%
80歳代で43%
の方が脊椎圧迫骨折の所見があるとされています。
男性では50歳以上で12.5%の人に見られるとされています。
症状
主な症状は、
・骨折直後の強い痛み
・身体を動かしたときの痛み(特に起き上がる時)
・重度になると、神経障害による足の痺れや筋力の低下
になります。
これらの症状以外にも、気づかないうちに脊椎圧迫骨折を繰り返し、腰が曲がり、身長が低くなる方もいらっしゃいます。
通常、骨折した部位はいずれくっつきますが、骨折したまま骨がつかない場合は、偽関節という状態になってしまいます。
偽関節になると、炎症による腰痛、むくみや腫れによる神経の圧迫、さらにひどくなると足に痛みが出ることも考えられます。
診断
診断には、画像検査が主に用いられます。
レントゲンで骨折が明らかでない場合は、MRIでの検査も行います。
また、脊椎圧迫骨折は骨粗しょう症など骨の強度の低下が関与するので、骨密度検査や血液検査、尿検査も行う事があります。
骨粗しょう症の検査やチェックについてはこちらも(骨粗しょう症のチェック方法)参照ください。
治療・予防
ここからは、脊椎圧迫骨折の治療や予防について解説します。
治療
脊椎圧迫骨折の治療は基本的には保存療法(手術をしない治療)が選択される事が多いです。
保存療法ではコルセットによる患部の安静、痛み止めの内服などで痛みの改善を図ります。
通常では、4週間ほどで骨が形成されはじめ、痛みが減ってきます。
保存療法の安静期間中は、お辞儀をする動作や、体を大きくねじるなどの動きも痛みを強くするため禁止したほうが良いでしょう。
ただし、完全な安静は筋力や体力の低下を引き起こすので、寝たきりにならないよう注意が必要です。
保存治療でも痛みが引かない場合、進行性の変形によって神経に障害が生じた場合は
手術が検討されます。
治療方針については医師との相談になりますので、診察でご相談ください。
安静時のポイント
・寝ている姿勢
仰向けで足を伸ばして寝ていると、腰痛が強く出やすくなります。
足の下にクッションを入れる、横向きに寝る、といった工夫で痛みが少なく安静を保てます。
森川大貴,石田和宏,宮城島一史:脊椎圧迫骨折後の臥床期における理学療法の工夫,理学療法ジャーナル2022 No.12,医学書院:p1403-1412より引用
・寝返り方
背骨が動かないようにすると痛みが少なく可能です。
寝返りする時は、両膝を立てて下半身と上半身を同時に転がるようにすると、痛みが少なく動作が出来ます。
森川大貴,石田和宏,宮城島一史:脊椎圧迫骨折後の臥床期における理学療法の工夫,理学療法ジャーナル2022 No.12,医学書院:p1403-1412より引用
・起き上がり方
寝返りした後起きる時は、両脚をベッドからおろし、肘・手でベッドを押すようにして起きるようにします。
こうすることで、背骨の動きを減らし痛みを少なく起き上がることが出来ます。
岡安健:脊椎圧迫骨折後の離床期における理学療法の工夫,理学療法ジャーナル2022 No.12,医学書院:p1413-1421より引用
予防
骨粗しょう症を有している場合は、重いものを持った時、くしゃみなどの軽い力で骨折が生じてしまう事があります。
そのため、疑いがある場合や、すでに診断されている場合は、専門の先生に相談し、悪化に注意をしましょう。
当院でも骨粗しょう症の検査や栄養相談が可能ですので、お問い合わせください。
また、脊椎圧迫骨折は尻もちや転倒などの外傷でも受傷します。
ロコモティブシンドローム(外部リンク:ロコモonline)、サルコペニア・フレイル(外部リンク:MedicalNote)とよばれる体力や筋力の低下、バランスの低下が生じないように運動を継続することが大切です。
まとめ
脊椎圧迫骨折は高齢者になると多くの方が受傷してしまう骨折です。
筋力・体力などの低下による転倒、骨粗しょう症などによる骨の強度の低下が主な原因となります。
身体を衰えさせず、転倒を防ぐための運動習慣を身につけることや、骨粗しょう症を進行させないための栄養のとれた食生活などが大切です。
当院でも骨粗しょう症の検査や栄養相談が可能ですので、お問い合わせください。
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参考文献
1)中村利孝,松野丈夫,井樋栄二,吉川秀樹,津村弘(編):標準整形外科学第13版医学書院:東京,p561-564,2017
2) MEDLEY HP:脊椎圧迫骨折 - 基礎知識(症状・原因・治療など) | MEDLEY(メドレー)
3) 公益社団法人 日本整形外科学会HP:「脊椎椎体骨折」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる (joa.or.jp)
4)一般社団法人 日本脊髄外科学会HP:脊椎圧迫骨折|一般社団法人日本脊髄外科学会 (neurospine.jp)
5)木村鷹介:脊椎圧迫骨折の疾患概要と疫学,理学療法ジャーナル2022 No.12,医学書院:p1394-1402
6)森川大貴,石田和宏,宮城島一史:脊椎圧迫骨折後の臥床期における理学療法の工夫,理学療法ジャーナル2022 No.12,医学書院:p1403-1412
7)岡安健:脊椎圧迫骨折後の離床期における理学療法の工夫,理学療法ジャーナル2022 No.12,医学書院:p1413-1421