腰椎分離症とは?原因や治療・予防についても解説
「スポーツをしている時に腰痛が出てしまう」
「若いころから腰痛に悩んでいる」
このような方は多くいらっしゃると思います。
腰痛と一言で言っても、様々な病態があります。
その中でも、“腰椎分離症”という言葉を聞いた・診断されたことはありませんか?
本記事では、スポーツ活動している方に多くみられる“腰椎分離症”について解説をしていきます。
腰椎分離症とは
腰椎分離症は、背骨が2つのパーツに分かれてしまう病態の事を言います。
まず、背骨(脊柱・脊椎ともいう)は
・7個の頸椎(けいつい)
・12個の胸椎(きょうつい)
・5個の腰椎(ようつい)
と首・胸・腰の椎骨が連なって構成されています。
椎骨は”椎体”と”椎弓”という部分に分けられ、
その部分の連続性が断たれた状態を”分離症”と呼びます。
この時、分離した椎体と椎弓は不安定となりますが、椎体がずれてしまうと”腰椎分離すべり症”という疾患が生じます。
発症しやすい部位
腰椎分離症の約80%が第5腰椎、その次に第4腰椎に多く発症しています。
男女比は、2~4:1と男性に多く発症することが特徴です。
腰椎分離症は、レントゲン検査やMRI検査などで確認することができます。
原因
腰椎分離症の原因は、腰を反ることや捻じることによって、疲労骨折を生じてしまう事が原因です。
成長期のスポーツ障害によるものが多く、野球やバレーボール、サッカーなどのスポーツ動作によって、腰に負担がかかり発症します。
スポーツの中では、投球動作のあるスポーツや器械体操、ボート競技で発症しやすいとの研究もあります。
腰椎分離症は成長期に多く、好発する年齢は11~15歳の間です。
この年齢は骨の成長速度の速い時期であり、一時的に骨の脆さが見られます。
骨が未熟な時期であるため、腰椎分離症が発症しやすいと考えられています。
・運動中の強い腰痛がある
・腰椎の突起部(棘突起)に押したときに痛みがある
・腰を反った時に痛みが強くなる
このような症状があれば、腰椎分離症が疑われます。
一方、成人の腰椎分離症は、痛みが無い場合が多く、偶然発見されることが多いです。
症状
腰椎分離症の症状は、主に腰痛です。
スポーツ後や腰を反ったり捻ったりした際に、痛みが生じます。
また、長時間の同一姿勢後に痛みが生じることも多いです。
分離した骨端には“偽関節”とよばれる癒合不全な状態や、“骨棘”とよばれる骨の出っ張りが生じることがあります。
偽関節が生じると、偽関節周囲の炎症による腰痛や、むくみ・腫れが神経を圧迫し、神経由来の足の痛みを生じることもあります。
腰の神経痛に関しては、こちらのページも参考になります。
原因
腰椎分離症の原因は、スポーツや日常生活などで繰り返し腰を反ることや捻じることです。
スポーツにおいては、野球やバレー、サッカーなどが腰を反る、捻じる動作を多く含みます。成長期にこれらのスポーツに関わっている方は、腰痛が出ていないか、腰に負担をかけるフォームになっていないかなど、注意してみましょう。
スポーツ以外でも、日常生活では以下のような場合に腰に負担がかかり腰椎分離症を発症する可能性があります。
・日常的に悪い姿勢になっており習慣化している
・姿勢が悪くなり筋肉も硬くなってしまっている
・筋力が弱い
・良くない方法のまま動作を繰り返している
このように、日常生活でも様々な要因が考えられます。
診断
診断には、画像検査が主に用いられます。
レントゲン(単純X線撮影)
腰椎を横から撮影した画像(側面像)では、分離した背骨の不安定性、すべりの程度を観察します。
CT
CTを用いることで、早期分離症の初期診断や片側の分離症の診断が可能になります。
腰椎を水平に撮影した画像(横断像)で、分離の程度や形態、進行度を確認します。
MRI
レントゲンで診断できる以前の、初期分離像を確認することができます。
分離発生の初期には、分離した椎弓に異常が認められます。
発生から時間がたった状態には、この変化は認められません。
治療・予防
腰椎分離症は、亀裂型と偽関節型に分類されます。
亀裂型は初期の像、偽関節型は終末の像で認められると考えられます。
発症初期では骨癒合が期待されますが、偽関節型になると骨癒合は難しく、治療方針も異なってきます。
治療
腰椎分離症では、一般的に保存療法(手術をしない治療)が多くとられます。
なお、成長期と成壮年期で治療方針が多少異なります。
保存療法
・成長期
成長期の発症初期と思われる場合には、分離部の骨癒合が期待できます。
その場合はスポーツ活動を中止させ、コルセット装着をして局所の安静を行います。
分離症の発生には、腰の反り返りと捻じりの運動の関与が大きいと考えられているため、骨癒合を目的として、背骨の動きを制御できる硬いコルセットが処方されることが多いです。
一方、発育期終末期の分離の場合には、骨癒合の可能性が低くなります。
そのため、腰痛が支障とならなければ、スポーツ活動は中止することはありません。
スポーツ復帰を許可し、腰痛の管理を主とした治療を選択します。
症状が出やすいのは腰の反り返り動作であるため、処方されるのは、腰の反り返りを制限するようなコルセットです。
その際は、スポーツ活動を制限しないよう、また腰の反り返り以外の運動を制限しないような、柔らかい素材を使用します。
コルセットのみで腰痛の管理ができない場合は、薬物療法やブロック注射を行います。
偽関節になってしまった腰痛は、偽関節内の炎症が考えられ、分離部に局所麻酔とステロイドを注入することで、炎症を鎮静化させます。
分離部由来の腰痛は、装具療法と分離ブロックを行うと、疼痛の緩和が期待できるでしょう。
また、運動療法としてストレッチや筋力トレーニングなどが指導されることもあります。
腰の反り返りの原因になりやすい、太ももの前のストレッチや体幹の筋力トレーニングなどを通して、腰へのストレスを軽減していきます。
・成壮年期
成壮年期では、分離症によっておこる椎体間の不安定性や変性、神経への圧迫に対する治療が中心です。
腰痛の急性期には、安静が指示されることがあります。
その他、必要に応じて薬物療法、コルセットを用いた固定、神経ブロックなども行ないつつ、徐々に日常生活に戻っていきます。
手術療法
基本的には保存療法が原則ですが、保存療法で痛みが緩和せず、日常生活やスポーツ活動に支障がある場合には手術が検討されます。
椎間板変性が無い場合には、椎間可動性を温存させる分離部の修復術が行われます。
椎間板変性がみられる場合には、椎体間固定術を行うことが多いです。
椎体間固定術の固定方法には、前方固定術、後方経路腰椎椎体間固定(PLIF)、経椎間孔腰椎椎体間固定術(TLIF)などがあります。
予防
分離症があっても、強い痛みや日常生活への影響がなく生活できる場合が大部分です。
痛みが強くない場合は、腹筋・背筋を強化して腰椎の安定性を高めることや、一般的な腰痛予防を心がけましょう。
運動の一例
・体幹筋力トレーニング(プランク)
・腰部安定化エクササイズ(ダイアゴナル)
痛みが無いとは言え、日常生活において注意することもありますので、ご紹介します。⁷⁾
座り姿勢(座位姿勢)
座り姿勢では、過度な腰椎の前弯・後弯に注意をしましょう。
また、長時間の同一姿勢を避けるようにし、運転時などは適度に休憩を挟むと良いです。
矢吹省司:腰痛予防と運動指導-セルフマネジメントのすすめ‐,MonthlyBookMedicalRehabilitation198,p21-28,201より引用
立ち姿勢(立位姿勢)
腰椎の前弯・後弯に注意をしましょう。
腰椎の前弯を助長する恐れがあるため、ハイヒールやヒールの高い靴は出来るだけ避けると良いです。
矢吹省司:腰痛予防と運動指導-セルフマネジメントのすすめ‐,MonthlyBookMedicalRehabilitation198,p21-28,201より引用
重量物を持つ際
重量物を持つ際は、腰を曲げるのではなく股関節・膝関節からまげて腰を落とすようにします。
そして重量物をできるだけ身体に近づけて持ち上げると良いです。
また、横移動や回旋するときは、腰ではなく一歩移動するなどし、股関節から行うと腰痛の予防になります。
矢吹省司:腰痛予防と運動指導-セルフマネジメントのすすめ‐,MonthlyBookMedicalRehabilitation198,p21-28,201より引用
洗面動作
洗面台は基本的に低い位置にあり、腰を曲げて使用することが多い場所です。
片脚を台に乗せるなどすると、単に腰を曲げるよりは腰への負担を減らすことができます。
矢吹省司:腰痛予防と運動指導-セルフマネジメントのすすめ‐,MonthlyBookMedicalRehabilitation198,p21-28,201より引用
まとめ
腰椎分離症は、成長期のスポーツ障害として、度々生じてしまう怪我でもあります。
また、成長期の方だけでなく、成壮年期においても生じうる怪我です。
普段の生活から、腰に過剰なストレスがかからないように予防を心がけ、活動的な日常を維持できるようにしていきましょう。
参考文献
1)中村利孝,松野丈夫:膝蓋骨骨折.井樋栄二,吉川秀樹,津村弘(編):標準整形外科学第13版医学書院:東京,p561-564,2017
2)名越慈人,塩田匡宣,町田正文,臼井宏:腰椎変性すべり症, 国立医療学会誌66(7):p328-333,2012-07
3)高橋和久:日常診療で出会う腰痛の診かた,中外医学社:p107-126,2012
4)寺山和雄,片岡治,山本博司:整形外科痛みへのアプローチ腰背部の痛み,南江堂:p207-224,1999
5)西良浩一:腰椎分離症-Spine Surgeonが知っておくべきState of tha Art-,Spinal Surgery 25(2):119-129.2011
6)Sairyo K,ほか:Vertebral forward slippage in immature lumbar spine occurs following epiphseal separation and its occurrence is unrelated to disc degeneration:Is tha pediatric spondylolisthesisa physis stress fracture of vertebral body? Spine(Phila Pa 1976) 29:524-527,2004
7) 矢吹省司:腰痛予防と運動指導-セルフマネジメントのすすめ‐,
MonthlyBookMedicalRehabilitation198,p21-28,201