医療法人社団 弘人会中田病院

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Column症状別コラム

大腿骨臼蓋インピンジメント症候群(FAI:femoroacetabular impingement)

2024/05/11 14:48

大腿骨臼蓋インピンジメント症候群
(FAI:femoroacetabular impingement)

股関節の障害として有名な変形性股関節症。
変形性股関節症は、生まれつきの股関節の形状や発達不全が原因となることが多く、二次性とされて
ます。変形により軟骨の摩耗や骨棘(こつきょく)という骨の出っ張りなどを形成し、本来、骨同士が衝突しない角度でも衝突することで、痛みの原因となります。
それに対しFAIは、一次性といわれる原因不明な病態が、生まれつきの股関節の形状に原因があるのではないかと言われています。
近年、早期に診断・治療を開始することが可能になってきており、治療の選択幅が広
り、手術を回避することが可能になってきています。

股関節の構造


股関節は大腿骨と骨盤(寛骨臼)の2つの骨で構成されており、向かい合う関節面には関節軟骨が存在します。
また関節唇(かんせつしん)という軟骨とは異なる組織が存在し、関節の被覆率(関節の深さ)の上昇や縁の接触時の衝撃緩和に関与しています。
股関節は安定性が高い関節で被覆率は約2/3と他の関節と比較して接触面積が広い形状をしています。大腿骨は頚体角といわれる約125°のカーブがあり、垂直方向から直線的ではなく斜め下から侵入する形になっています。
同様に骨盤側(寛骨臼)も斜め下方向に傾斜している。こういった構造的な角度は男女・個人によって差があるとされています。

FAIとは

股関節の運動時に寛骨臼辺縁部と大腿骨頸部ないし骨頭頚部移行部付近が繰り返し、衝突することにより寛骨臼縁の関節唇及び関節軟骨に損傷が惹起される病態です。

正常の関節においても衝突は起こりえますが、生理的な関節運動において関節唇や関節軟骨の損傷にまで至ることはありません。しかし特有の形態異常(ピンサータイプやカムタイプ 後述)が存在する場合、繰り返し衝突することにより寛骨臼縁の関節唇及び関節軟骨に損傷が惹起される可能性があります。

FAIの概要について述べている文献や成書に共通するキーワードは①特有の骨形態異常②繰り返しのインピンジメント③関節唇、関節軟骨の損傷があります。

しかし、正常股関節においても②繰り返しのインピンジメント にて特定の部位に繰り返しストレスが加わることでFAIの病態を発症する可能性はありえます。これにはスポーツや生活習慣が関与すると言われており、①特定の骨形態異常があっても、疼痛など日常生活において支障なく、FAIの病態は発症しない可能性もあります。

FAIのタイプ

  1. ピンサー タイプ

寛骨臼辺縁の過剰な被覆

関節運動時にインピンジメントが生じることで関節唇損傷をきたすと共に、衝突側と反対の寛骨臼辺縁ではわずかな亜脱臼を伴う寛骨臼縁における応力集中をきたす。

  1. カム タイプ

大腿骨頭・頸部移行部の骨性隆起による衝突

  1. コンバインド タイプ

ピンサーとカム が混合した状態。それぞれの変形が軽度であっても、混合していることで接触しやすくなる。

症状

FAIの主症状としては、股関節の痛み・関節可動域制限が挙げられます。初期症状としてはしゃがみこんだり、靴下の着脱など深く曲げた際の痛みや違和感から始まり、車の乗り降りなど足を上げた際や寝返りなどでも痛みが生じるようになります。動かした際の痛みが主症状ではありますが、座ったままなど同一姿勢でも痛み違和感が発生するようになり、また鈍いような痛み(鈍痛)が発生することもあります。

診断

身体所見

・前方インピンジメントテスト陽性(股関節屈曲・内旋位での疼痛の誘発を評価)

・股関節屈曲位での内旋角度の低下(股関節屈曲90°での内旋角度の健側との差)

画像所見(寛骨臼被覆の評価)

「1.ピンサータイプのインピンジメントを示唆する所見

・CE角40°以上

・CE角30°以上かつARO(Acetabular roof obliquity)0°以上

・CE角25°以上かつCross- Over Sign陽性

 

2.Cam typeのインピンジメントを示唆する所見

・CE角25°以上

主項目:α角55°以上

副項目:Head- neck offset ratio 0.14未満・Pistol grip 変形・Herniation pit

主項目含む2項目以上の所見を要する

 

上記の画像所見を満たし、臨床症状を有する症例を臨床的にFAIと判断する。」※1

引用:大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)の診断について(日本股関節学会指針)より※1

治療

初期症状においては保存療法(手術を伴わない)が選択されます。
保存療法では骨の異常形態を改善させることはできませんが、軽症例においては保存療法でも症状の改善が期待できるとされています。
炎症が認められる場合には、注射や内服薬にて炎症の鎮静化を図ると共に、リハビリテーションにおいて運動指導などが行われます。

負担となりうる動きの指導から始まり、股関節以外の部分の柔軟性の改善によって股関節への負担が集中することを防ぎます。
炎症が沈静化された後は、股関節周囲の柔軟性の改善や筋力強化を図っていきます。
 

仮に手術が必要になった場合においても、手術で柔軟性や筋力が強くなることはなく、むしろ弱化する可能性があるため、術前からリハビリテーションを行うことは重要といえます。

ピンサータイプの場合のリハビリ

女性に多く発症することが分かっています。
生まれつきの臼蓋形成不全を伴っていることが関係し、股関節が不安定であることで痛みが出る可能性があります。
→股関節を安定させるための筋肉を強化することで、予防・改善を図ります。
大殿筋・中殿筋・小殿筋といった、お尻の筋肉を強化する運動を行いましょう。

カムタイプの場合のリハビリ

股関節の後下方関節包や外旋筋群の硬さが出ている可能性があります。
→自主トレとして、四つ這いになり、股関節を90度より深く曲げていき、後下方関節包のストレッチを行います。この際、関節唇を挟み込んで痛みが出ない範囲で極力ゆっくり行うようにします。関節唇の損傷により炎症が出ている時は、安静にし炎症が軽減するのを待ちます。
 

保存療法で改善が見られなかった時や診断時に手術が必要であると判断された場合は、手術が適用されます。変形の強い部分の切除や関節唇の損傷がある場合は、縫合などが行われます。
最近では関節鏡と言われる小さい傷で済む手術方法もあります。
術後には早期にリハビリテーションを開始し、段階的に負荷量を調節しながら日常生活やスポーツの復帰を図っていきます。
外部リンク:股関節機能障害理学療法ガイドライン 参考

まとめ

日本においては、FAIにおける研究はまだ発展途上でありますが、股関節損傷の病態と結び付けられています。生まれつきの骨形態も一生そのままではなく、変形が徐々に進行してしまうケースもあり、早期発見で手術を回避できることもあります。

 

引用・参考

関節外科 基礎と臨床 Vol36 No.2 2017:MEDICAL VIEW 2017