医療法人社団 弘人会中田病院

tel

〒347-0065 埼玉県加須市元町6番8号

Column症状別コラム

前十字靭帯(ACL)損傷

2023/09/02 14:55

前十字靭帯(ACL)損傷についての基礎知識

膝を痛めてしまうと、きちんと治るのか、手術が必要なのか、どのように治療をしていくのか、さまざまなことを不安に思ってしまいますよね。

中でも前十字靭帯(ACL)という靭帯を損傷してしまうと、手術が必要になったり、長期間リハビリをしなければいけなくなったりします。

入院や手術を伴う治療になると、大変なイメージを持つ方も多いと思います。

今回の記事では、ACL損傷の概要や当院で行なっている手術やリハビリ、ACL損傷の予防方法などについて解説します。

前十字靭帯とは何か?

ACLとは、膝関節内の靭帯の1つであり、膝の安定性を保つ重要な役割を担っている靭帯のことを言います。

ACLは前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament)の略で、膝関節の内側に位置し、ももの骨と膝下の骨をつなぎ、膝の前方向の安定性を保つ役割を担っています。膝関節の屈曲、伸展、回旋運動など、様々な動きを可能にしています。また、ACLを損傷すると、膝が不安定になり、激しい運動中に膝に負荷がかかってしまい、運動中に膝がひねられたり、膝が異常な動きを起こしたりする可能性があります。

 

実際に、ACLが損傷すると、膝関節の不安定性が生じるため、日常生活やスポーツ活動が制限されることがあります。また、スポーツ選手においては、ACLの損傷が多く報告されています。
次に、ACL損傷の原因について見て行きます。

前十字靭帯損傷の原因とは?

ACL損傷の主な原因は、スポーツや日常生活での怪我が挙げられます。また、女性の方が男性に比べてACL損傷のリスクが高いことが報告されています。

その理由としては、女性の膝関節の解剖学的特徴や、筋力バランスの偏りなどが挙げられています。
次に、ACL損傷の症状と診断方法について見て行きます。

前十字靭帯損傷の症状と診断方法とは?

ACL損傷の症状には、膝の痛み、腫れ、膝関節の不安定感などがあります。

診断方法としては、身体検査により膝関節の可動域や安定性を確認したり、MRI検査で膝関節の内部構造の詳細な画像を見たりすることで、ACL損傷の診断をします。レントゲン検査では、骨折など他の損傷がないか確認することができます。

 

診断の具体例としては、バスケットボールの着地の際の怪我により、膝の動きが制限され、膝を伸ばせなくなったとします。受診をしていただいたら、まずは身体検査で、現在の膝の動きや痛みの状態、膝の安定性などを確認します。身体検査後、MRI検査によって、ACLの断裂が明らかになることがあります。レントゲン検査では、骨折や関節面の変形がないことを確認することができます。

 

次に、ACL損傷の治療方法について見ていきます。

保存的治療とは?

保存的治療は、サポーターや装具などで膝を保護しつつ、医師の指示に従い、リハビリや日常生活での負荷量を高めていきます。

損傷の程度によっては、松葉杖が必要になることもあります。

手術治療の種類には何がありますか?

手術治療には、以下のような種類があります。

・単純なACL再建術(自己腱移植や人工腱の使用)

・複合的な膝関節の再建術(半月板再建、半月板切除、軟骨修復など)

 

手術治療は、患者さんの状態や希望、活動レベルに応じて、個々に最適な方法を選択します。例えば、若いアスリートの場合は、高い運動能力を維持するためにACL再建術が選択されることが多いです。

これは、ACL損傷診療ガイドライン2019でも同様のことが言われており、”若く活動性の高い患者に対しては、ACL再建術を行うことを推奨する”とされています。

出典:前十字靭帯ACL損傷診療ガイドライン2019(改訂第3版)

手術後のリハビリについて知っておくべきことは何ですか?

手術後のリハビリは、手術後翌日から始めます。

リハビリは、筋力を強化し、関節可動域を回復させ、機能を取り戻すために必要です。

また、適切なリハビリを行わない場合、再発や合併症のリスクが高くなることがあります。

 

当院でのリハビリプログラムは、下記の通りです。

[スケジュール目安]
手術前日

手術の前日に入院をし、病棟に関することや手術に関することなどの説明があります。

リハビリスタッフは、手術前の状態の確認をさせていただきます。

手術翌日

手術翌日からリハビリが開始になります。まずは、病棟内でトイレ動作ができるように練習をします。

1日目から1週間 
膝に装具を着用して歩行練習(松葉杖または歩行器)を開始します。歩行練習以外には、関節可動域練習、低負荷でのスクワットなど筋力強化も同時に行います。

1週から2週間 
このくらいの時期に退院します。

退院後は外来でのリハビリを行います。

外来でのリハビリでは、状況に応じて杖無し歩行の練習も行っていき、杖に頼らない歩きを獲得していきます。

4週間 
この頃には、エアロバイクを漕ぐことが開始になります。

自動車運転が開始になるのもこの頃です。

6週間 
この頃から、日常生活で自転車の運転が開始になります。

日常生活では装具をoffにしていきます。 (電車や人混みなどでは装着)

3か月 
この頃からジョギングが開始になります。

歩行と比べて負荷量が上がるので、走りのフォームをみて弱点を克服していきます。

4か月 
この頃から、ダッシュ(全力の7-8割程度まで)が可能となります。

ただし、急激なストップやダッシュは禁止です。

他にも、ステップなどアジリティエクササイズが開始になります。

球技はボールを使用したトレーニングが一部開始となります。

5か月 
この頃には、フルスピードでのダッシュが開始になります。

プレー時には、装具を装着します。

サッカーではミドルレンジのシュートの練習を開始したり、ジャンプ競技では、両脚着地でのシュートやアタックなどの動作が開始になります。

6か月 
この頃には、ノンコンタクトでの練習が開始になります。

8か月 
8ヶ月目でスポーツに完全復帰となります。

前十字靭帯損傷を予防するためにできることは何ですか?

筋力トレーニングやストレッチは、ACL損傷のリスクを減らすために効果的な方法の1つです。

参考:前十字靭帯損傷の予防より

筋力トレーニングやストレッチの他には、正確な動作をすることや、コンプライアンスなども影響するとされています。

 

ACL損傷は、足に力が入ったときや、着地動作時に膝が内側に入ることで損傷されることが多い怪我です。

膝が内側に入らないように、筋力をつけたり、動作練習をしたりしていくことがACL損傷を予防することになるでしょう。

 

まとめ

今回は、ACL損傷に関する基礎知識について解説しました。

スポーツをする人にとっては、怪我は今後のスポーツ人生を左右してしまうほど大きな出来事になることもあります。

もしACL損傷をしてしまっても、適切な治療・リハビリを行なっていくことでスポーツに復帰できるようになるかもしれません。

今回の記事が、少しでもACL損傷の方に参考になれば幸いです。