歩行障害とは?種類や原因について解説
「歩くのが異常に遅くなってきた」
「歩き方に違和感がある」
「つま先が引っかかってしまう」
「躓く事が増えた」
など感じたこと、言われたことはないでしょうか?
今回は上手く歩行ができなくなってしまう歩行障害の種類や原因について解説していきます。
歩行障害
歩行障害とは、歩行に必要な部位に何らかの障害が起こることで、日常的に歩きにくくなる状態のことを言います。
加齢によって歩行速度が遅くなることもありますが、歩行障害とは異なり、60~70歳以降で歩幅や歩行率(1分間に何歩歩けるか)が大きく低下し、歩行速度が低下することが分かっています。加齢によって“歩くのが少し遅くなった”だけであれば正常な加齢変化と言えます。
歩行するためには、筋肉やそれを支配する神経の働きが重要です。
歩行は「脳卒中」「脊柱管狭窄症」などの脳血管疾患や神経疾患と、「変形性関節症」などの骨、関節疾患などを発症することで歩行が難しくなります。
では、中枢神経疾患と整形疾患になることで見られる歩行障害とは、どのようなものがあるのでしょうか。次の項目では、いくつか代表的なものを解説していきます。
中枢神経疾患に多い歩行障害の種類
最初に、中枢神経疾患に多い歩行障害について解説します。
痙性歩行
主に中枢神経系の障害により、脚が伸びきるようにつま先立ちの姿勢で、つま先を引きずるように歩く状態。
「痙性」とは、手足をうまく曲げ伸ばしできなくなる症状を言います。
主疾患:頚椎症性脊髄症(整形外科:脊椎)
はさみ脚歩行
痙性歩行と同様の症状が両側性に生じ、足を閉じるように歩く状態。
主疾患:頚椎症性脊髄症(整形外科:脊椎)
鶏歩
足首が垂れたまま歩く状態。
つまづきを回避しようと、足を大きく持ち上げるように歩行することが特徴です。(下垂足:外部リンク)
主疾患:腓骨神経麻痺(脳神経内科・整形外科)
トレンデレンブルグ歩行・デュシェンヌ歩行
トレンデレンブルグ歩行とは、ケガや病気をした脚で片足立ちした際に、骨盤を水平に保つことができずに、反対側へ骨盤が落ち込む歩行を言います。
デュシェンヌ歩行はこれと反対に、ケガや病気をした脚の方向に骨盤が落ち込む歩行を言います。
これら2つは、股関節の安定性を保っている筋肉が弱くなることで生じます。
どちらも中枢神経疾患だけでなく、整形外科疾患でも見られます。
主疾患:脳卒中(脳神経内科)・変形性関節症(整形外科)
小刻み歩行
名前の通り、極端に歩幅の間隔が狭くなり、腕の振りも少なくなる歩行のことを言います。
主疾患:パーキンソン病(神経内科)
突進歩行
体が前に傾いたまま徐々に早足になり、止まれなくなってしまう歩行です。
前に歩く時だけでなく後ろ歩きでも見られ、一度歩き始めると止まれなくなってしまうため、転倒につながる可能性が非常に高い歩行です。
関連疾患:パーキンソン病(神経内科)
失調性歩行
運動麻痺や筋力低下はないのに、円滑な動きができない「運動失調」を発症した場合に多く見られる歩行の総称です。
失調性歩行にみられる歩行の1つとして、酔っ払いのようにふらふらと歩く“酩酊歩行”があります。
運動失調を引き起こす原因部位によっては「言葉をうまく発せない」「目を閉じて立つと動揺が増加する」「手足がどれぐらい動いているかわからなくなる」などの特徴が現れることもあります。
骨・関節疾患に多い歩行障害の種類
次に、整形疾患に多い歩行障害の種類について解説します。
間欠性跛行
間欠性破行は、少し歩行すると脚の痛みや痺れが出現しますが、休憩をとれば再び問題なく歩けるようになるという場面を繰り返す歩行です。
そのほかの特徴として「脚が冷たい」「歩いているときのみ症状が現れる」「片側だけに症状が現れる」「しゃがみ姿勢などの特定の姿勢で楽になる」などがあります。
関連疾患:脊柱管狭窄症・坐骨神経痛(整形外科)
墜落性跛行
片脚で立っている時に、反対側の骨盤が下降するような歩行の事を言います。左右の脚の長さに差がある場合に多く見られます。
関連疾患:変形性股関節症・先天性股関節症(整形外科)
歩行障害に対するリハビリ
歩行障害は、原因に合わせて適切なリハビリを行えば予防、改善が見込めます。
筋力トレーニング
中枢神経疾患、整形外科疾患に共通して、歩行障害に関与している筋肉のトレーニングを行うことで、歩行障害の改善を行います。
閉塞性動脈硬化症などの血管に関与する疾患でも、筋力トレーニングにより、血流が改善し、症状が軽快することもあります。
バランストレーニング
バランストレーニングを行うことで、安全に立ち上がりや歩行ができ、転倒予防にもつながります。
バランストレーニングでは、良い姿勢を保つために重要な体幹や太もも、ふくらはぎなどの大きな筋肉をメインに鍛えましょう。
歩行補助具の選定
歩行障害は、リハビリを継続することで軽減できるものもありますが、中枢神経疾患由来のものは回復に長い時間がかかることも多いです。
現時点での歩行能力に合わせて、適切な歩行補助具を使用し、積極的に歩行することもリハビリになり回復に有効です。
歩行補助具はメーカーにより多くの種類がありますが、代表的なものをご紹介します。
杖・多脚杖
自分で歩行が可能な方向けの道具です。バランス能力によってさまざまな杖が選択でき、杖先のゴムが大きいものや、杖の脚が4本になっているものなど、様々なタイプがあります。
近年ではホームセンターなどでも取り扱っており、入手のしやすさも特徴です。
松葉杖
脇に挟みながら、グリップを手で握りこんで使う杖です。腕の力を使って脇を締めるようにして使う特性上、ある程度の腕の力が必要になります。
歩くときは、杖を使うスペースが無いとバランスが悪くなるため、狭い場所では使いにくい・転ぶ可能性があるなど、欠点もあります。
シルバーカー
自分で歩ける人の歩行を補助する道具です。荷物入れや椅子として使用できる機能もあるため、外出時や買い物での使用が主になります。
歩行器と歩行車
自分で歩くことが難しい方が使用します。幅が広く安定性が高いため、脚にかかる負担も少ないことが特徴です。歩行器は使用場面が屋内に限られますが、歩行車は屋内と屋外どちらでも使用可能です。
まとめ
今回は、歩行障害の種類や原因について解説しました。
今回解説した内容以外にも、歩行障害の種類や原因は多くあります。
歩行障害がおきた場合は、その原因や状態に合わせて適切なリハビリを行うことが重要です。
発症初期からの治療が重要なため、少しでも歩行に違和感がある場合は、お近くの医療機関を早めに受診してみましょう。
1)厚生労働省 介護予防マニュアル第4版
2)滝澤恵美ら,地域在住高齢者における歩行の加齢変化にみる自己調整─8年にわたる縦断研究から─,理学療法科学35,557-563,2020
3)難病情報センター 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)
4)和田直樹,歩行障害の種類と原因疾患 The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine,730-734,2018
5)難病情報センター パーキンソン病(指定難病6)
6)奈良勲,標準理学療法学 専門分野 運動療法学 各論,医学書院,2019
7)高倉伸幸ら,血管研究と血管治療,実験医学増刊Vol.28 No.17,2010
8)奈良勲,標準理学療法学 専門分野 内部障害理学療法学,医学書院,2019
9)難病情報センター 後縦靭帯骨化症(OPLL)(指定難病69)
10)日本整形外科学会 変形性関節症
11)荒井秀典,フレイルの意義,日本老年医学会雑誌51 (6),497-501,2014
12)和田昌一ら,転倒予防のための歩行補助具選択に関する検討,日職災医誌,188-192,2006
【引用文献】
1)寺山和雄ら,標準整形外科学第7版,医学書院,1999